自己受容と変化 (self-acceptance & change)
自分の持っている性格的特徴が受け入れがたく、自己嫌悪に陥ったり、苦しんでいる方はたくさんいます。
それは例えば完璧主義であったり、怒りっぽかったり、お人好し過ぎて人に利用されてばかりだったり、人に気を遣いすぎていつも疲れていたり。
だけどこうした本人にとって「嫌いな自分」は、その人のこれまでの人生のお話に注意深く耳を傾けていると、いずれもそこには理由があります。
そこには彼らがその性質を身に付けるようになった理由があり、彼らが嫌うその性質は、確かに現在は彼らを苦しめる事になっているけれど、同時に彼らを今まで守ってきてくれた性質でもあるのです。
例えば完璧主義でいつも頑張り過ぎて肩の力が抜けない人。
それは、とても厳しい教育方針の親になんとか認めてもらうためであったりします。
子供にとって親は世界であり、すべてです。どうしてもうまくやっていく必要があります。
あるいは、過去のどこかでとても大きな失敗や挫折をして深く傷つき、それが余りにも辛かったので、二度と傷つかないように、常に人一倍努力してきたのかもしれません。
いまやその人を取り巻く環境はその人がかつて傷ついた環境とは大きく異なり、もはや誰もその人を責めたり非難したり笑ったりしませんが、そんなことは本人にはわかりません。
たとえ頭ではわかっていても、身体感覚レベル、情緒レベル、無意識レベルではわかりません。
無意識はタイムレスであり、時間の感覚がなく、現在と過去の違いがわからないのです。
それでも、丁寧に自分の半生を振り返っていく中で、どうして自分がその性質を身に付けるようになったのか、その致し方ない理由が見えてきます。
それから、自分が嫌っているその性質が、これまでいかにして自分を守ってきてくれたかも分かります。
たとえば完璧主義の人は、とにかく頑張るので、それゆえ大きな達成も多いです。完璧主義で非常に優秀な方にはよくお会いします。
人に気を遣い過ぎて疲れている人たちは、過去に何か人間関係でとても辛い思いをした方が多いですが、周りに気を遣うことでそれ以降今まで大きな人間関係の失敗もなく、その性質ゆえ、誰からも好かれる、相手に安心感を与える人になれたのかもしれません。
人間の心の変化のパラドックスは、「変われない」その性質を自分の中で本当に受け入れる事ができた時から変われるようになる、という事です。
サイコセラピーでクライアントの性格が改善される要素の一つは、実はここにあります。
長年誰かに話すことができなかったり、自分自身うまく向き合えなかった問題を、セラピストという他者に向けて話していく中で、まず、自分では受け入れられないその性質を、セラピストに受け入れてもらいます。
一切の批判も判断もなしで(脚注1)、ひとたび誰かに本当に受け入れられた経験をする事で、人はその問題に少しずつ向き合えるようになり、やがて自分でも受け入れられるようになり、そこから脱却できるようになっていきます。
これはもちろんサイコセラピスト以外の人が相手でも実現可能です。
あなたの親友や、ご家族、信頼できる人を相手に話して受け入れてもらう体験です。
もしそういう人が今いなくても、自己分析的にゆっくりと自分の人生を振り返っていくことは可能です。
日記のように、少しずつ書き出していくのも良いでしょう。
思い起こしてみて、その性質はいつから始まったのか。
それは人生のどの出来事が関係しているか。
関係している他者は?
その時あなたはどんな気持ちだったか。
その性質が自分の人生に及ぼしている悪影響。
逆に、その性質が自分の人生にもたらしてくれた良いもの、その性質が自分をどのように守ってくれていたか。
などなどと、自問自答していきます。
その中で、大事なのは、自分自身にきちんと寄り添ってあげながら作業を進めていくことです。
その中で、「こういうことがあったら、こういう行動を取るようになるのもよくわかるよね。仕方がないよね」、と、受け入れていきます。
ここで重要なのは、自己受容と自己憐憫の違いです。
これはセラピストが共感(empathy)と同情(sympathy)を履き違えてはならない事とも通じるものです。
自己受容は、いわば自分に共感する事であるのに対し、自己憐憫は、自分に同情する事です。
同情や自己憐憫はどこにも辿り着かないけれど、共感と自己受容は成長へ変化に繋がります。
【まとめ】
自分の問題を自己批判する事なく見つめ、因果関係を理解し、ありのままに受け入れるところから、良い変化は始まります。
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脚注1: ここがセラピストとしても時に難しいところです。セラピスト自身の価値観ゆえにそのクライアントの問題が受けれられないと、セラピストはクライアントの話を黙って聞くことができずに、アドバイスや慰めなどを始めてしまいます。
感情は大事なメッセージ
ここまで、感情は、出来事そのものではなくて、その出来事をその人がどのように解釈するかによって引き起こされる、という話をしてきました。ここでひとつ、とても重要なことをお伝えしておかなくてはなりません。
それは、人間の感情とは、本来とても大切なものであり、すべての基本感情には、皆さんが生きていくためにとても重要な意味がある、ということです。
これから認知行動療法についてしばらくお話していくことになりますが、その前に、大前提として、感情は大切である、ということは強調しておきたいと思います。
問題なのは、あなたが感じている感情が、状況に対してごく自然で適応的であるのか、極端であり、不適応的であるのか、ということです。
怒りに任せて配偶者や子供に暴力をふるうのは、明らかに不適切な怒りですが、自分が何に不満があって、どうして怒っているのか、暴言、暴力なしで、毅然とした態度で相手に伝えていくのは適切な怒りです。認知行動療法の目的は、あなたにとって不都合な感情を取り除くことではありません。過度に強いために不適応になっている感情を、状況に見合った、適応的な感情にしていくことです。
たとえば、適度は不安は、あなたのその状況に対応する準備のための行動を促進してくれますが、過度な不安はあなたを動けなくしてしまいます。
よく本屋さんの店頭で見かける自己啓発本で、怒りなどの難しい感情を5分とか短期間で取り除く方法などの本を見かけますが、それが正しいことだとは思いません。
それどころか、世の中のあまりに多くの人たちが、自分の自然な感情と向き合えずに、その感情から目を背けたり、押し殺して生きているために、不適応を起こしています。
我々人間には、祖先からずっと受け継がれてきた、5つの基本感情があります。それは、喜び(Joy)、怒り(Anger)、悲しみ(Sadness)、恐怖(Fear)、嫌悪(Disgust)の5つです。(心理学者によっては、これが4つだったり、6つ以上だったりします。たとえば、嫌悪という感情は、怒りと恐怖のブレンドに過ぎないといった話です)
いつか紹介したいピクサーの映画「インサイドヘッド」("Inside Out")にも、この5つの基本感情がどれだけ私たち人間の営みに大切であるかというメインテーマがありました。
我々の基本感情は、進化心理学的にひとつひとつ、サバイバルや環境適応的に意味があります。
たとえば怒りですが、状況に適した怒りは、その人にとって大切な誰かに危険に晒されている、あるいは、自分自身が危険に晒されている、ということを知らせてくれて、その危険を取り除く行動を促してくれます。
怒りの感情があるから、自分を守ったり、誰かを守ることができるのです。
恐怖(不安)という感情も、同様に重要です。恐怖心があるから、我々はケガやトラブルを避けるように注意深く行動できます。
古代、恐怖心のなかった個体は真っ先に死んでいたため、次世代に遺伝子を残すことができませんでした。
我々現代人に生得的に備わっている基本感情は、その基本感情を持っていた祖先が環境に対して適者だったということです。
怒りや恐怖や悲しみといった感情を経験することは苦痛ですが、状況に応じて必要な感情です。
その自然な感情をひとつひとつきちんと認識して経験して折り合いをつけていくことが、私たちを良い方向に導いてくれますし、人生を豊かで深みのあるものにしてくれます。
今日から自分でできる認知行動療法 その2
前回は、同じ会社の面接に同じように努力して臨んで同じように不採用であったAさんとBさんのリアクションが非常に対照的であったという例を挙げました。
同じ出来事なのに、二人のリアクションが大きく異なるのは、ふたりがその出来事をまったく異なった形で解釈していたからだという話でした。
しかし通常、このふたりは、どうして自分が落ち込んでいるのか、あるいは、どうして自分がすがすがしい気持ちなのか、あまり考えていません。
特に、落ち込んでいるAさんは、自分の落ち込みが、ネガティブなイベントによって直接的に引き起こされたと思っています。不採用になったから落ち込んでいるのだと。
つまり、その落ち込みが、不採用という出来事を、破局的に解釈したことによってもたらされた、ということは知りません。
なぜなら、こうした解釈は、本当に一瞬で、ほとんど無意識的で、自動的に起こる考えだからです。
この「一瞬で、ほとんど無意識的で、自動的に起こる考え」を、認知行動療法において、自動思考(Automatic thoughts)と呼びます。そのまんまですね。
自動的に起きる考えで、しかも一瞬なので、普段ひとは意識していません。
しかし、そこに意識を向けることで、こうした一瞬の自動思考を捕らえて意識化することも可能なのです。
次にあなたが何か嫌な経験をして、たとえば、とても腹が立ったとき、自問してみてください。
「今、頭の中を何がよぎった?」、「今、どんな考えがよぎった?」と。
たとえば、今社会問題になっている、煽り運転ですが、運転していて激怒して煽り運転をする人には、相手のドライバーの運転に対して、「激しい怒り」に繋がる破壊的な解釈が起きています。これも自動思考で、このドライバーは、どうして自分が激怒しているのか、きちんと認識できていないでしょう。
相手のドライバーがほとんど同じように不適切な運転をしたところで、世の中の多くの人は、煽り運転に発展しません。なぜ彼らが煽り運転をするほどに激怒するのか。
そこにはいろいろな解釈が考えられますが、たとえば、「侮辱された」、「無礼な態度を取られた」など、よくしられています。単純に「危なかった」ではありません。そもそも、「危ない運転」ではなかったのに煽られるドライバーは少なくありません。それに、危ない運転をされて怖い思いをした人の多くは、煽り運転という仕返し行為はしません。
もっと詳しくお話すると、彼らはその成育歴から、自己愛が強くなり、プライドがとても傷つきやすくなっている可能性があります。こころのずっと奥、中核に、否定的な自己イメージがあります。たとえば、「他人は俺を馬鹿にしている」という信念です。こうした、自動思考の性質の方向性を決めている、こころの中核にある信念を、「中核的信念」(Core Belief)と呼びます。これもそのままですね。
中核的信念については別の記事でもっと詳しく書きたいと思います。今は自動思考に専念しましょう。認知行動療法の基本は、自分の「自動的思考」をうまく捕まえて意識化できるようになることです。慣れてくると、自動思考は容易に捕まえられます。
捕まえたら、その自動思考が「本当にそうなのか」、「その考えは適切なのか」、「客観的にみたら、他にどんな考えがありえるだろうか」、「何かもう少し建設的な考え方はないか」、などと自問していくわけです。こうした別の考えが浮かんだ時点で、既にあなたの気持ちは改善していることに気づくでしょう。
たとえばあなたが最近付き合い始めた恋人にラインをしたのに、半日経っても既読にすらならないことで、すごく不安になるとします。
「何が頭のなかをよぎってる?」「どんな考えが頭の中をよぎった?」
と、自問します。紙に書き出してみると、より取り組みやすいです。
そこでたとえば、「彼(彼女)は、怒っているんだ」とか、「自分に興味をなくしちゃったんだ」とか、「大切に思ってくれてないんだ」とか、いろいろあると思います。
こうした考えが意識化できたら、今度はこうした考えに対して反証を試みます。
「仕事が忙しいのかも」、「急務で忙殺されているかも」、「携帯持っていくの忘れているのかも」、「充電がきれたのかも」、などなど、いろいろ考えられます。
こうしたより現実的で、否定的でない考えを思いつくことで、不安な気持ちが軽減するのがわかるでしょう。ここでも、「思考が感情を決定付けている」というのがわかると思います。ニュートラルな考えによって、否定的な自動思考が中和され、不安な感情も改善したわけです。
今日から自分でできる認知行動療法 その1
これからお話する事は、私がよく心理カウンセリングの現場でクラ
シンプルだけれど効果的で、すぐに
私達は、日々の日常の中で、喜怒哀楽と、実に様々な感情を経験し
皆さんの最近の生活において、何か強い感情を経験した出来事を思
すごく嬉しかったことでも、すごく悲しかった事でも、すごく腹立
こうした時、多くの方が普通に信じているのは、その出来事によっ
〇という出来事が、△という感情を引き起こした、という図式です。非常にシンプルです。
例えば、あなたが、一生懸命準備して臨んだ採用面接に通らなくて、
この時通常、「面接に落ちたから落ち込んでいる」と多くの方は考
しかし実のところこれは正確ではありません。
例えば、AさんもBさんも同じくらい努力して全く同じ採用面接を
同じ出来事、同じ経験なのに、なぜでしょう?
答えは、AさんとBさんは、その出来事に対する解釈、つまり認知
例えば、Aさんは、その会社にどうしても入りたくて、自分にはそ
その一方でBさんは、その会社は記念受験的に、受かるはずがない
Aさんはその結果を破壊的に解釈しました。「この会社に落ちてし
Bさんは、「こんなすごい会社の最終面接までいけたんだ。自分も
ここまで読んで、皆さんは、AさんとBさんでどうしてそんなにリ
この、出来事に対する個人の「認知の仕方」に焦点を当てたのが、
認知行動療法(Cognitive-Behavioral Therapy)は、あらゆる心理療法の中でもとりわけ修得しや
それを臨床で使えるようになるためにはそれ相当の訓練が必要です
これからしばらく、認知行動療法について、皆さんが自己改善に応
Dr. よだかのこころの安全基地
はじめまして。Dr.よだかです。よろしくお願い致します。
あなたにとって、帰る場所はどこですか?
アメリカの心理学者、メアリー・エインスワースが1985年に提唱した、安全基地(secure base)という概念は、いまや日常会話でも出てくるようになりました。
それにしても、安全基地とは何でしょう?
安全基地とは、平たくいうと、私達人間誰にとっても大切な、「こころの拠りどころとなる存在」です。
それはあなたの配偶者かもしれませんし、パートナーかもしれませんし、恋人かもしれませんし、親やきょうだいかもしれませんし、先生だったり、会社の上司や先輩だったり、親友だったりします。
もしあなたが今、「安全基地なんてないよ」と思うのでしたら、あなたは正しいサイトに来ています。
このサイトは、そんなあなたの安全基地となれる事を願って作られました。
「安全基地なら間に合ってます」というあなた、それは何よりです。ただ、安全基地はいくつあっても良いですし、このサイトは、あなたの既存の安全基地の機能をより良くするために作られました。
私はとある臨床心理学者です。
心理学者と言っても、仕事の9.5割は臨床です。
現在、毎週40ケースのサイコセラピー(心理カウンセリング。主に個人、カップル)に携わり、アクティブなケース数は70人を超え、メールカウンセリングやビデオ通話による遠隔カウンセリングも駆使しています。
私の望みは、少しでも多くの方のお力になれる事です。少しでも多くの方の人生が好転するようにお手伝いする事です。
しかし、そのようにして、予約もいっぱいで取りづらいような多忙な日々を送るなかで気づいたことがあります。
今のやり方で助けられる人は限られている。
これ以上予約枠を作れば仕事の質に問題が出てくるし、それでも時間は限られている。
そんななかで思いついたのがこのページを作ることです。
様々な理由で実際にお会いする事ができない方に対しても、何かできる事があるかもしれない。
もちろん、実際の交流に越したことはありません。しかし、ここで書いていくことで、あなたのお役に立てるかもしれない。
そう思って、冒頭の安全基地を意識したコンテンツを、ここで書いていきたいと思いました。
正直、どこまでお役に立てるか分かりません。でも、ここでお話する事が、少しでもあなたの人生においてプラスになれたら、本当に嬉しいです。