こころの安全基地

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今日から自分でできる認知行動療法 その2

前回は、同じ会社の面接に同じように努力して臨んで同じように不採用であったAさんとBさんのリアクションが非常に対照的であったという例を挙げました。

 

同じ出来事なのに、二人のリアクションが大きく異なるのは、ふたりがその出来事をまったく異なった形で解釈していたからだという話でした。

 

しかし通常、このふたりは、どうして自分が落ち込んでいるのか、あるいは、どうして自分がすがすがしい気持ちなのか、あまり考えていません。

 

特に、落ち込んでいるAさんは、自分の落ち込みが、ネガティブなイベントによって直接的に引き起こされたと思っています。不採用になったから落ち込んでいるのだと。

 

つまり、その落ち込みが、不採用という出来事を、破局的に解釈したことによってもたらされた、ということは知りません。

 

なぜなら、こうした解釈は、本当に一瞬で、ほとんど無意識的で、自動的に起こる考えだからです。

 

この「一瞬で、ほとんど無意識的で、自動的に起こる考え」を、認知行動療法において、自動思考(Automatic thoughts)と呼びます。そのまんまですね。

 

自動的に起きる考えで、しかも一瞬なので、普段ひとは意識していません。

 

しかし、そこに意識を向けることで、こうした一瞬の自動思考を捕らえて意識化することも可能なのです。

 

次にあなたが何か嫌な経験をして、たとえば、とても腹が立ったとき、自問してみてください。

 

「今、頭の中を何がよぎった?」、「今、どんな考えがよぎった?」と。

 

たとえば、今社会問題になっている、煽り運転ですが、運転していて激怒して煽り運転をする人には、相手のドライバーの運転に対して、「激しい怒り」に繋がる破壊的な解釈が起きています。これも自動思考で、このドライバーは、どうして自分が激怒しているのか、きちんと認識できていないでしょう。

 

相手のドライバーがほとんど同じように不適切な運転をしたところで、世の中の多くの人は、煽り運転に発展しません。なぜ彼らが煽り運転をするほどに激怒するのか。

 

そこにはいろいろな解釈が考えられますが、たとえば、「侮辱された」、「無礼な態度を取られた」など、よくしられています。単純に「危なかった」ではありません。そもそも、「危ない運転」ではなかったのに煽られるドライバーは少なくありません。それに、危ない運転をされて怖い思いをした人の多くは、煽り運転という仕返し行為はしません。

 

もっと詳しくお話すると、彼らはその成育歴から、自己愛が強くなり、プライドがとても傷つきやすくなっている可能性があります。こころのずっと奥、中核に、否定的な自己イメージがあります。たとえば、「他人は俺を馬鹿にしている」という信念です。こうした、自動思考の性質の方向性を決めている、こころの中核にある信念を、「中核的信念」(Core Belief)と呼びます。これもそのままですね。

 

中核的信念については別の記事でもっと詳しく書きたいと思います。今は自動思考に専念しましょう。認知行動療法の基本は、自分の「自動的思考」をうまく捕まえて意識化できるようになることです。慣れてくると、自動思考は容易に捕まえられます。

 

捕まえたら、その自動思考が「本当にそうなのか」、「その考えは適切なのか」、「客観的にみたら、他にどんな考えがありえるだろうか」、「何かもう少し建設的な考え方はないか」、などと自問していくわけです。こうした別の考えが浮かんだ時点で、既にあなたの気持ちは改善していることに気づくでしょう。

 

たとえばあなたが最近付き合い始めた恋人にラインをしたのに、半日経っても既読にすらならないことで、すごく不安になるとします。

 

「何が頭のなかをよぎってる?」「どんな考えが頭の中をよぎった?」

 

と、自問します。紙に書き出してみると、より取り組みやすいです。

 

そこでたとえば、「彼(彼女)は、怒っているんだ」とか、「自分に興味をなくしちゃったんだ」とか、「大切に思ってくれてないんだ」とか、いろいろあると思います。

 

こうした考えが意識化できたら、今度はこうした考えに対して反証を試みます。

 

「仕事が忙しいのかも」、「急務で忙殺されているかも」、「携帯持っていくの忘れているのかも」、「充電がきれたのかも」、などなど、いろいろ考えられます。

 

こうしたより現実的で、否定的でない考えを思いつくことで、不安な気持ちが軽減するのがわかるでしょう。ここでも、「思考が感情を決定付けている」というのがわかると思います。ニュートラルな考えによって、否定的な自動思考が中和され、不安な感情も改善したわけです。